2020年 11月 22日
ベニスの街灯、欠くことのできない美
でもよく考えてみれば実際、昔、月のない夜のベニスを歩くのは大変なことでした。多くの道は今でもほとんどがガードなしで運河に寄り添って続いていきます。水に落ちてしまう危険性は大きく、どこで人に襲われるかもわかりませんし、多分とても古い時代から、ヴェネツィア人達はたいてい灯りを持って夜の道を歩いていたに違いありません。貴族たちはもちろん召使いが灯りを持って道案内をしました。暗闇のために犯罪が増え、16世紀ぐらいから、政府の奨励もあって、この灯り持ちはだんだんと職業になっていき、貴族だけではなく、一般市民も使うようになりました。この灯り持ちは多分この頃からcòdega (コデガ)と呼ばれるようになります。語源はギリシャ語のodigos(ガイド)という言葉に由来するとも言われますし、あるいは燃やすための油をとるcotica(豚の皮)から来てるとも言われます。
1732年、十人委員会は、犯罪予防のためベニス全体にオリーブオイルを燃やす街灯をつけることを決定します。これを毎晩つける職業はimpissaferai(インピッサフェライ)と呼ばれるようになります。この街灯に照らされた夜のベニスのロマンチックさは1700年代にベニスを訪れた旅行者たちの記録に残っています。
1839年からヴェニスにガスが通るようになり、街灯はガスが使われるようになります。ただガスが燃焼するときの臭気は問題の一つでしたが、1889年街に電気エネルギーが届いてこの問題を解決します。それでも細いカッレなど、照明のない一角も多く残り、夜の灯りの必要性は続いていきます。
1927年全部の街灯が電気に代わります。その後照明は増えていき、今日では、ほとんど照明なしの部分はありません。どちらにしても携帯の灯りの登場とともに懐中電気も必要ない今日、明るい夜に慣れてしまった私達、照明のことなどはほとんど考えもしませんが、世紀を通じて、闇と共存してきた人々の夜のベニスは、私たちが今日経験する街とは全く別のベニスだったに違いありません。
街に残る鉄製の街灯は照明が入る部分を除いて、1700年代のもので、ベニスの美しさには絶対欠くことのできないものの一つです。
ベニスライセンスガイド 田口やよい筆
http://www.veniceguidetour.com